No.6 : Dix ans – Noël 2021

新政とコラボレーション

東京、2021年12月

ARAMASA_NO6

Aramasa & Nicolas Buffe / No6 : Dix ans – Noël 2021

999 marches

「九百九十九の石段」
~男鹿半島に伝わる昔ばなし~

むかしむかしのお話です。不老不死の薬草を求めて、漢の武帝が五人の鬼とともに男鹿にやってきました。
この武帝のために働く鬼たちは、1年に1度だけ正月に自由を許されていました。
鬼たちは村里に下りては畑を荒らし、娘をさらったりと狼藉を働きます。困った村人は武帝にこう頼みました。
「鬼たちが一晩で、五社堂まで千段の石段を築くことが出来れば、毎年一人ずつ娘を差し出します。できなければ二度と鬼を村に降ろさないでください」
武帝はこれを受け入れて、鬼たちに賭け事をさせることにしました。
いざ勝負が始まると、鬼たちは予想以上に手速くどんどん石段を積み上げてゆきます。
ところが、999 段目を積んだとき、「コケコッコ」と一番鶏の鳴き声が……。実は村人の一人が、とっさに機転を効かせて鶏の真似をしたのでした。夜が明けたと勘違いした鬼たちは悔しがり、千年杉を引っこ抜いて逆さに刺して、山奥に帰っていきました。


内容量:720mℓ、原料米:秋田酒こまち、精米歩合:55%、アルコール分:11 度、仕込容器:温度制御タンク
使用瓶:SW

商品の詳細についてはこちら:

http://www.aramasa.jp/

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No.6: Dix ans – Noël 2021のリリースに寄せて

「No.6」の十周年の機会に、6 番目のコラボレーションとして 本作品を手がけることができて、大変嬉しく思います。
クリスマスは昔話に適する時期なので、今回、私は新政酒造の所在地である秋田県の伝説から着想を得ることにしました。

「999 の石段」というお話は、ナマハゲの儀式の起源を語る伝説としても知られています。
この民話を要約すると 、<太陽の力に敗北した鬼 >についてのお話とも理解できます。太陽に秘められた神秘的な力について、『Cosmos』(2015 年 ) または『Journal hédoniste V』(2013 年 ) の中で、ミシェル・オンフレが語るところによると、キリスト教の祝日である「クリスマス」は、そもそも光の再来を祭る古代異教の信仰を受け継いだものということです。またローマ帝国の祭典である「ソル・インウィクトゥス」(Sol invictus、”不敗の太陽”の意味)が冬至の時期に行われており、キリスト教がローマ帝国の国教となった時、それに合わせてイエスの誕生は冬至の時期に設定されたといいます。

さて本作にあらわれるキャラクターについてですが、「999 の石段」の物語の主役ともいえるナマハゲ(鬼)の姿は <仮面をつけた毛むくじゃらの 鬼>というものです。まるでナマハゲは、<自然世界(野生)>と<人間世界>をつなげる存在のように見えます。

私は歴史的に異なった文化間において何らかの関連性を見つけることを好むのですが、今回はフランスやイタリアのルネサンスの芸術分野に登場する「野生の男」(omo selvatico) というテーマとの関連性を考えてみました。アンドレ・シャステルが著した『Masque,mascarade,mascaron』 (1959 年 ) によりますと、このキャラクターはヨーロッパの芸術的建築物や芝居・舞台にさかんに登場するのですが、全身が毛むくじゃらで牧神のマスクをしております。このスタイルは、中世時代の様々な逸話とルネサンス期のバレエや仮面舞踏会の意匠が入り混じってできたものだということです。

私の作風にとって重要な一部である美術史におけるルネサンス期のグロテスク装飾(※)の作法においても説明しましょう。
グロテスク装飾においては、自然における世界 動物界、植物界、鉱物界などを形態学的に混合して表現することが多いです。このため今回ボトルに登場するナマハゲも、「男像柱」(termes) や「アトラス」(Atlas) として表現することになりました。この鬼は千番目の石段を手で持っているデザインなのですが、それだけではありません。イタリアやフランスの建築装飾やマニエリスムの洞窟、またフォンテーヌブロー派の絵画によく見られるように、曲がりくねった足と「 6 」のデザインを組み合わせることで、<野生>と <金細> という相反する要素を結びつけてもおります。

さて、瓶の蓋を開けると、物語の奇跡の転換が起こります。
側面ではポップな星がクリスマスツリーの形を形成しており、ナマハゲの石段が建設された男鹿の森の姿を呼び起こさせます。また石段の数について、9 と 6 の数字の視覚的なシンメトリーは、まるで光と闇の対照を想起させます。「怒り」と「怯え」で表現される2つのナマハゲの表情も、物語の構造に合わせて配置いたしました。そして雄鶏のデザインですが、これは 20 世紀半ばのアメリカのカートゥーン(アニメ)のスタイルのように描いてみました。

ちなみに雄鶏は、フランスのシンボルでもあることをご存知でしょうか。「雄鶏の叫びで鬼が逃げた」というのは、まさに皮肉な結末であり、本作品に軽妙なタッチを加える良い機会になったと思う次第です。

Nicolas Buffe
ニコラ・ビュフ

 

※『グロテスクの系譜』アンドレ・シャステル著、永澤 峻訳 参照

 

(ボトル不随のライナーより)

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